Innovation:History

2012年3月号

衣類用洗剤「タイド」

衣類用洗剤「タイド」

*P&Gの日本法人による販売はしておりません。

石けんから洗剤へ- 洗浄力を劇的に向上、洗濯事情を変える

P&Gが海外で販売している洗濯用洗剤「タイド」。オレンジと黄色の“的”のようなマークで親しまれるこの洗剤は、1946年に米国で生まれたロングセラーです。石けんで洗濯をしていた時代、硬水地域に暮らす人々は石けんカスに悩まされていました。石けんカスの悩みを解消し、しかも洗浄力が飛躍的に向上した合成洗剤「タイド」の登場は画期的で、圧倒的なスピードで市場を確立しました。よりよい洗濯のために、今もイノベーションを重ねる「タイド」を紹介します。

「奇跡の分子」の発見

1920年代、一般家庭では石けんで洗濯をしていました。硬水地域では、石けんが水中のカルシウム、マグネシウムなどのミネラル分と結びつきやすく、石けんカスが消費者の悩みの種でした。P&Gをはじめ多くのメーカーが、石けんカスの出ない洗剤の開発に取り組みましたが、解決の糸口はなかなか見つかりませんでした。

最初の突破口が見つかったのは1931年、P&Gの研究者がドイツ視察に訪れたときのことでした。ドイツでは第一次世界大戦中に、石けんが手に入らなくなった時期がありました。繊維工場では、染料を繊維に均一に浸透させる湿潤剤として石けんを使っていましたが、その代替物として家畜の胆汁を使いました。戦後、これに目をつけたドイツの企業が胆汁から有効成分を取り出して合成物質をつくることに成功、繊維業界に販売していました。

P&Gの研究者は、この物質(界面活性剤)が持つ、分子の鎖の一端に油を、もう片方に水をくっつける性質を見て、洗剤に応用できないかと考えたのです。すぐさまP&Gは多くの研究者を投入して研究開発に着手し、翌年の1932年には、初の家庭用合成洗剤「ドレフト(Dreft)」が誕生しました。しかし、このドレフトは軽い汚れの洗濯には向いていましたが、ひどい汚れを落とすことはできませんでした。

10年の試行錯誤を経て発想の転換が、夢の洗剤を現実のものに

洗浄力の高い合成洗剤の開発へ、1930年代、P&Gは試行錯誤を繰り返します。石けんと混ぜる、温める、冷やす、粉砕するなど、無数の処方や製造法を試みましたが結果は出ず、1939年にプロジェクトはとうとう縮小されました。

しかし担当者には信念がありました。何度もプロジェクト中止がささやかれる中、黙々と実験を続けました。様々なアイデアの一つに、ビルダー(洗浄補助剤)を使うというものがありました。ビルダーとは、それ自身には洗浄力はなく、洗浄成分が汚れに吸着するのを助ける成分です。ドレフトにも使われたそれまでのビルダーは、衣類をごわごわにしてしまう性質がありました。衣類にザラザラを残さない新しいビルダー“トリポリリン酸ソーダ(STPP)”の発見で、プロジェクトが一歩前進しました。

1943年、ターニングポイントは突然訪れました。
洗浄成分である界面活性剤と、ビルダーの配合比率を逆転してみたのです。それまでは洗浄力をあげるには、洗浄成分をできるだけ多く、ビルダーを最小限にするというのが通説でした。この通説をいったん忘れ、洗浄成分を大きく上回る量のビルダーを配合したとき、驚くべきことが起こりました。洗濯物をよりきれいに洗い上げ、あわ立ちもよく、もちろん石けんカス問題も解決したのです。

1946年、商品化へ

処方完成の知らせを受けて、経営陣は色めきたちました。当時、P&Gは石鹸事業で米国市場をリードしていましたが、他社との競争に疲弊し、ブレークスルーな革新を必要としていたのです。
経営陣は二つの大きな決断をしました。

一つは製品化までのスピード。それまでのP&Gは綿密な準備のもと、時間をかけて慎重に市場展開してきました。「 しかし市場テストと改良に何年もかけて、サンプルを入手してすぐに追随してくるであろう競合に差がつけられるのか?」

もう一つは、基幹ビジネスである石けん事業への打撃でした。「この画期的な洗剤が発売されれば、消費者は飛びつくことだろう。しかしそれは石けん事業を脅かし、これまでの投資が全部無駄になるかもしれない。」
しかし“消費者にすぐれた製品を提供することが私たちの使命”と考え、第二次大戦後、物資が手に入るようになると、かつてない大規模な投資をし、全速力での市場展開に着手しました。

発売するや大ヒット 新しい洗濯習慣をつくる

1946年、新しい洗剤は「タイド」(=Tide、潮流の意)と名づけられ、米国市場にデビューしました。石けんのパッケージと同じ同心円をモチーフに、オレンジ、黄色、青という大胆な色使いで、タフな洗浄力を訴求。当初想定していた硬水地域はもちろん、軟水地域でも洗浄力の高さが大いに受け、既存の石けんを圧倒する売れ行きを見せました。

偶然の幸運にも恵まれました。戦後の経済成長下、洗濯機が普及しはじめたのです。タイドの広告では洗濯機を印象的に使い、洗濯機メーカーと提携して洗濯機を販売する際にタイドをつけてもらうなど、”新しい洗剤“のイメージと知名度を一挙にあげました。また海外市場へも展開。土地ごとに異なる洗濯習慣や文化にあわせた便益をもりこみ、新しい洗剤が次々と誕生しました。

1948年ごろには生産がおいつかないほどに需要が伸び、生産設備を大幅に増強。タイドの成功は、会社全体の成長の原動力ともなりました。

液体洗剤、漂白剤配合、環境配慮製品?続くイノベーション

タイドの発売から50年間以上、その時代の消費者や社会のニーズを反映して、洗剤カテゴリーに次々と新しいイノベーションを起こし続けてきました。

「液体タイド」(1984年)の発売は、画期的なものでした。現在、洗剤市場で成長を続けている液体洗剤ですが、液体タイドの発売までは、粉末タイプに匹敵する洗浄力をもつ液体洗剤は実現していませんでした。P&Gは、米国、カナダ、日本、ヨーロッパの技術者を投入し、のべ40,000時間を費やして新たな洗浄化合物を開発しました。液体タイドは、当時の他の液体洗剤の2~3倍に相当する12の洗浄成分で構成されており、これだけ多くの種類の成分を一つの製品に安定して配合することが大きな課題となりました。P&Gは安定化のためのシステムを開発し、その能力を最大限に引き出すことに成功したのです。

また、漂白剤を導入した「タイド ウィズ ブリーチ」(1989年)も、洗剤カテゴリーに新たな価値を加えました。洗剤に配合しても安定して働く漂白成分と、それを効率よく働かせる活性化剤(NOBS)を開発。北米での洗濯習慣を考慮し、短い洗濯時間に洗濯液の中で漂白成分が十分に活性化するよう分子設計しました。このNOBSを用いた漂白システムは、タイドのほかアリエールにも応用され、白く洗い上げたいというお客様のニーズを満たしました。

近年のイノベーションの中で、環境配慮製品として注目を集めた事例が「タイドコールドウォーター」です。米国では高温に温めた水で洗濯することが一般的です。「タイド コールドウォーター」は冷水のままで洗うことができ、洗濯1回あたりの使用電力を8割近く節減、CO2削減に貢献できます。同時に消費者に環境への負担がすくない、新しい洗濯習慣を提案することができました。